私の大好きな投資関連でオススメの本をご紹介します。今回の本はズバリ「デイトレード(原著:Tools and Tactics for the Master Day Trader)」。こちらの本はオリバー・ベレスさん、グレッグ・カプラさんという2名の投資家さんの共著です。彼らは全米最強とも呼び声の高いトレーダー養成機関「プリスティーン」を運営するスゴイ方達です。
同著の前衛的な点は、難しい数式や理論のようなものが一切書かれていないということです。(これは訳者の裁量によるものとも思われますが…)
私が読んだ中で特に実践的であるなあ、と感じた「第5章 トレーディングにおける7つの大罪」を中心に紹介いたします。その7つとは、以下のとおり!
- 1. すぐに損切りできないこと
- 2. 利益を勘定すること
- 3. 時間軸を変更すること
- 4. より多くを知ろうとすること
- 5. 過度に自己満足に陥ること
- 6. 間違った勝ち方をすること
- 7. 正当化
個別株に手を出した人の中には、この一覧を見るだけでドキッとしてしまう方もいるのではないでしょうか。ちなみに私は身に覚えがあり過ぎて、終始説教されている気分になりました…笑
では、内容いってみましょう!
1. すぐに損切りできないこと
まず第一の大罪は「すぐに損切りできないこと」。損切りとは、自身の保有している金融資産をマイナス利益のまま売りに出すことを指します。これ以上の株価上昇が期待できない場合やこれ以上損失を拡大させないため行うことが多いです。
100円で買った品を90円で売るような感じです。そのまま放っておくと、80円、70円…もしかしたらゴミ同然の値段となってしまうかもしれない。なので、10円分の損失を受入れ90円でひとまず売却するわけですね。これが損切りです。
言葉にするととても簡単ですが、損切りは本当に難しいです。熟練したトレーダーでも間違います。
損切りの判断には、感情が大きく作用します。人間である以上、損失は回避したいという心理が働きます。また、「この株の価値は上がるぞ!」と判断して買った過去の自分自身の戦略が間違っていたことを一旦は受け入れなければなりません。
当然ですが、未来は不確実です。損切りを行った次の日に株価が大きく改善する可能性も無くはないです。損切りなんてしなければ良かったのに…なんて後悔を残すこともありそうですよね。
それら感情の作用を認めた上で、本著ではそれらをトレーディングにおける大罪である、としています。(厳しい…)また、こうも述べられています。
トレーディングにおいて成功するか否かは、人生における成功と同様に、いかに損失をコントロールするかによって決まる、と。名言きました。
具体的な方策としては、「損切りの水準をあらかじめ決めずにポジションをとってはならない。」です。
ちなみにポジションというのは、株の売買や保有を指します。売る場合は売りポジション、あるいはショートポジション。買う場合なら、買いポジション、あるいはロングポジション。買った株を持ち続けるのはホールドとか言います。まあ、つまり損切りを想定してない奴は株の売買すんじゃねえ、ってことです。ド正論だあ。
「プロとアマの違いはミスの少なさだ。プロはミスが少ない。」と昔有名なギタリストが言っていました。これは、どの業界分野に限らず共通なことかもしれません。ミスはプロでもします。ミスを最小限にできるからプロなんです。
投資においては損切りが上手いかどうかがプロとしての資質を決定しそうです。投資家としての向上を目指すのであれば、利益にこだわるより損失のクオリティに注視した方が賢明ですね。
2. 利益を勘定すること
第二の大罪は「利益を勘定すること」です。これは言葉そのままに、利益が膨らんだとか損失が拡大したとかを常に見るのはやめましょう、ってことです。
多くの投資家にとって、利益を上げることこそがモチベーションかもしれません。しかし、利益を追い求めることに終始すると合理的な判断が難しくなります。
皆さんの中にもいるんじゃないでしょうか。「少額の利益を失うのが怖くて大幅な株価上昇の直前に利食いしてしまった。」あるいは、「損切りすべきタイミングを取り逃して損失が膨らんでしまった。」ちなみに私は全て経験済みです。笑
投資行動で重要なのは、「自分はどこにいるのかではなく、自分は何をすべきか」に集中することです。
ポジションをとるタイミングは適切か?損切り基準は?株価目標は?株価目標に達した場合取るべき行動は?トレーダーなら常に自問すべきことです。
その上で注目すべきは株価の上下動ではありません。自身のトレーディング計画が着実に遂行されているのか、ここに視点を置くべきです。優れた手法なら、自然と利益に結びつきますよ。私も頻繁に実現損益をチェックするのやめないとなあ。
3. 時間軸を変更すること
投資には時間軸というものがあります。
具体的には、①超短期 ②短期 ③中期 ④長期の4つです。
定義は様々ですが、①超短期は数秒~数分 ②短期は数日から数週間 ③中期は数週間から数か月 ④長期は数か月から数年 といった区分けです。
この時間軸は、投資家一人一人の戦略によって異なります。
①や②のように比較的短期間で売買が成立するものは、市場の需給見極めやチャート分析が主体となり、企業の業績などはあまり重要視されません。少額の利益を積み重ねていくスタイルです。
③のような中期になると、市場の需給に加えて企業そのものの価値なども重要になってきます。あるいは、国策や日銀の動向、社会的なニュースなども価格形成に大きく影響してきます。短期よりリスクは抑えられますが、考えるべき事象が多いのが特徴です。
④の長期投資は、短期的な価格変動を一切気にしないという戦略です。最近流行りの新NISAなどで推奨される「長期分散積立」という概念が分かりやすいですね。
投資信託など適度に分散された商品を10年20年という長い期間保有すると、損をする確率がグッと低減することが学術研究でも明らかとなっています。あのリーマンショックやコロナショックでさえ、短期的には株価を大きく引き下げたものの、以降の数年でショック以前の価格を大きく上回る最高値を記録しています。つまり長く持つほど失敗リスクが大きく減ります。欠点はつまらんってことくらいですかね。
ちなみに、長期ではインデックス投資など市場全体に投資する商品と相性が良いです。(※個別株ではないので注意してくださいね。)
前提の話が長くなってしまいました。つまり、時間軸というのは、どのような商品をどのような戦略で保有するのか、と非常に関連しています。ここまでの話で分かる通り、ポジションをとる以前の計画で時間軸は決めておく必要があります。あとは、その計画を忠実に遂行していくのみです。
端的に表現すると、時間軸の変更はこの計画不履行に当たります。はじめは短期中期で保有すると決めポジションを取ったはずなのに、「中々利益が出ない」あるいは「損失が出てしまったから長期でもう少し持っておこうかな…」というのは、ルール違反です。いわゆる塩漬けですね。
まあ、そうしてしまう気持ちは痛いほど分かります。私も経験者ですから。しかし、当初の戦略を無視してしまうのは、本書いわく大罪に他なりません。
上記2つの話にも共通することですが、自らのミスを認めず損切りラインを恣意的に引き下げることは破滅への第一歩です。自分にとって都合の良いシナリオを夢想し、自身が敗者であることを認められない人に成長は望めません。最悪、市場から退場を迫られます。安易に当初の時間軸を変更することは絶対にやめましょう。
4. より多くを知ろうとすること
ウォール街の格言に「噂で買って、事実で売れ」というものがあります。
感覚的には、しっかりとした確証を得てから買った方が良いのでは、と思ってしまいますよね。しかし、より多くの情報を求めようとすると動きは遅くなります。事実関係が明らかになる頃、すでに株価上昇は完了しています。事実を掴んでから買いに出動するのでは既に遅すぎるというわけです。
市場の価格は参加者の期待によって先行する場です。マーケットに確実性や安心感を求めてはいけません。情報に囚われすぎると、利益を取り逃すのみならず、他の参加者に自身の資産を譲り渡すことになります。結果、負けるべくして負けます。
市場の不確実性を受入れ迅速にリスクテイクできる者にお金は集まります。もし、噂の段階で買った後にその戦略や仮説が間違いだったと判明したら、その時点でいち早く損切りするだけです。
仮説が有効であったら利益、間違いだった場合は損切りとなるだけで、全ては結果論に過ぎないのかもしれません。利益も損失もない。ただ、計画に基づいた結果がたまたま利食い、損切りになっただけとも言えます。
「これから知ろうとしていることは、取引に必要な情報なのか、それとも安心を得たいだけなのか」十分に見極める必要があります。
投資とは、余計な感情をいかに排除するのかを競うゲームなのかもしれませんね。
5. 過度に自己満足に陥ること
「過度な自己満足」とは要するに”油断”のことです。全てが順調であると、自身の意識は散漫になりがち。人間であれば仕方のない心理である気もしますが…。
過度な自己満足は、トレーダー自身の視力を曇らせます。自身を取り巻くマーケット環境は日々刻刻と変化していくにも関わらず、視界不良なトレーダーはそれら変化を見逃します。しかし、自身に連勝をもたらした環境が長続きする保証はありません。
過度な自己満足を防止する具体策として、本書には主に2つの手法が紹介されています。
”連勝続きの場面ではポジションの量を半分にする” ”取引頻度を減らす” です。
要は、調子の良いときほどリスク分散に努めよう、ってことです。取引の絶対量を低減することで、当然ですが負けた時のマイナスを少なく抑えることができます。
少ないロットで連敗した場合は、自身の戦略を冷静に見極める精神的な余裕がありますが、多額ロットで負けた場合はこれまでの利益を吐き出すばかりか、最悪マーケットからの退場を迫られます。それだけは回避しなければなりません。
何事にも共通して言えることですが、油断は大敵です。調子の良いときほど、一歩引いて判断する冷静さを身に付けましょう。
6. 間違った勝ち方をすること
トレーディングの世界において、「結果よければ、すべてよし」の精神性は明確に否定されます。つまり、正しい勝ち方、間違った勝ち方が存在するということです。初心者ほど、この間違った勝ち方の存在を理解していません。
では、間違った勝ち方とは何なのでしょうか。それは「自身で決めた戦略アプローチを遵守しない上での利益獲得」です。
例えば、あるトレーダーが事前に決定していた損切り水準を遵守せず、結果として利益につながったとします。本来は損失となるべき取引が利益獲得に繋がったこのトレーダーは、損切りを遵守できなかったことに喜びを感じるようになってしまうでしょう。
次回、同じような場面に遭遇したとき、このトレーダーはまたもや損切りを遵守することができない。なぜなら前回はストップ・ロスを無視したことが利益につながったからです。もちろん、株価が前回同様に反発する保証などない。苦労せず得た利益をマーケットは必ず取り戻しにやってきます。
間違った稼ぎ方は、次回以降の無責任な行動を誘発します。そして、無責任な行動は得た利益以上の金額を失うまで続きます。著者の言を借りれば、間違った稼ぎ方を執行すると、マーケットからは嫌われてしまう、のです。
偶然勝つことはあっても偶然負けることは無いのです。皆さんは是非正しく負けて正しく学びましょう。正しく負ければ、マーケットから報復されることもありません。皆さんは決して仮初の勝利に翻弄されませんように!
7. 正当化
最後の大罪、それは「正当化」です。例えば、『時間軸を変更してしまう』『取引計画を実行できない』等々。上記の大罪を犯しながらも、それら自身の誤った行動を正当化してしまうことが今回の大罪です。
自身の行動を正当化してしまいたい気持ちはとてもよく分かります。損失の原因を自分自身に求めるのはあまりにも辛いですからね。私も身に覚えがあります。
『上昇すると予想した銘柄があまりにも弱い。何か悪いニュースでも出たのだろうか?いや、とくに悪いニュースはなさそうだ。損切りラインまで間もなくだが、その前に日足チャートを確認してみよう。』といった具合です。結果として損切りラインを超過し、損失は拡大していきます。
これら行動の致命的要因は、損失の原因を自分自身に求めるのではなく、他の人間や現象に転嫁することで楽に生きようとしている点にあります。
「決算が悪かったからしょうがない」「日銀や政府のコメントがサプライズだったからどうしようもない」「つまり自分自身の行動に過失はない」ではあまりにも実りがない。そういった人間にマーケットは容赦しません。
解決策はいたってシンプルです。当初立案した取引計画を淡々と実行するのみ。株価の下落・上昇はただの結果に過ぎません。結果が計画に則したものであれば利食い、計画と反する変化であったなら損切り、ただそれだけのことです。
自分の計画(仮説)と異なる結果が得られたとしても、自分自身にとって都合の良い情報を取りに行ってはいけません。また、自分の仮説を支持してくれそうな人にのみ助言を求めてもいけません。バイアスがより深刻化するだけですから。
この点は研究とも似ているなと感じます。自分にとって都合の良い検定方法を選択してしまうだとか、有意差が出るまで検定するだとか、後から追加のサンプル採集を行うだとか…言ったらキリがありませんね。それら全て研究不正です。
目的を逸脱しないよう、あらゆるゲームに対し忠実なプレイヤーでありたいですね。
最後に
いかがだったでしょうか。あまりにも正論すぎて、また、過去の自分に当てはまる気がして、何だか説教されたような気持ちになりませんでしたか?笑
これら大罪に当てはまらない方は優秀です。今後も継続することで、優れたトレーダーになれるでしょう。
大罪に当てはまった方は、今すぐ改善していきましょう。初めは辛いかもしれませんが、今耐え忍べばマーケットからの退場を防ぐことができます。
私自身、自分のトレーディング習慣に改善すべき点が多くあることに気が付きました。利益が絡むとどうしても視野狭窄に陥りがちです。しかし、それらを律する精神性が投資の本質なのではないか、と本書を通じ学びました。
投資に関連する書籍も今後たくさん紹介していければいいな、と思います。お金の話がやっぱり一番面白いなあ。笑
では、今回はこれで~。