今回は,私が過去最も読み返してきたであろう「仕事は楽しいかね?」をご紹介します.何度読んでもその都度学びがある,人生の指針ともいえる大切な本です.京都大学でiPS細胞の研究をされている山中教授の愛読書でもあるそうですね.人生を成功に導くためには,何十冊もの多読ではなくただ一冊の本を精読することが肝要なのかも.人生に携える一冊として非常に有用な作品です.
- 職業的スタグフレーション
- 試してみることに失敗はない
- 完璧とは,ダメになる過程の第一段階
お時間ある方は,以降の解説もよろしくお願いいたします~.
デイル・ドーテンってどんな人?
デイル・ドーテンは,アメリカの実業家,コラムニストです.アリゾナ州立大学大学院でMBA取得後,スタンフォード大学大学院で修学.マーケティング・リサーチ専門会社を起業し,マクドナルド,3M,P&G,コダックなど名だたる企業の顧問を務めました.新聞でのコラムが評判となり,執筆活動を開始.コラムニストとしても大活躍された方です.
ここまで聞くと,”お、高学歴エリート著作のよくある自己啓発本か?“なんて意見が飛んできそうですが,それは違います.
そのへんの怪しげな自称ビジネスエリートが書いた自己啓発本と異なり,ガチもんのゴリゴリエリートが執筆しただけあって,内容に信頼性と説得力があります.また,身近な有名企業や有名人を題材とした物語調で展開されていくため,読書が苦手な方にも優しい.この親しみやすさは,新聞にコラムを掲載する過程から磨かれたのでしょうか.
デイル・ドーテンさんへの理解を多少深めたところで,内容に触れていきます.
職業的スタグフレーション
本書は仕事に大きな不満を抱える主人公の男が,偶然出会った老人との対話をキッカケに人生の活力を取り戻す話です.3行解説と言いつつ,1行でも書けてしまうのですが,まあいいでしょう.笑
主人公は自身が抱える仕事への愚痴を老人に伝えます.老人はそこから受けたイメージを”職業的スタグフレーション“と名付けます.どういう意味でしょうか.
そもそもスタグフレーションとは,景気が低迷しているにもかかわらず,インフレーション,つまり物価高騰や賃金上昇の低迷が起こることを指します.stagnation(停滞)とinflation(インフレーション)を併せた造語です.自身を取り巻く環境からも,自分自身の主観からも豊かさのシグナルを感じられない状態といえますね.まるで今の日本を象徴するような言葉…この概念が登場する以前は,インフレとデフレの各特性が同時に表出することは無いと考えられてきました.金融危機や戦争,政治不安を背景に端を発するようです.
話を元に戻します.老人の言う”職業的スタグフレーション”とは,多くのビジネスパーソンが「したくもない仕事をし,同時にそれを失うことを恐れている」ことを指します.やりたくない仕事,あるいは多くの責任を要求される仕事であれば報酬に期待できるはず.しかし,その頑張りが報われることはない.不満はどんどん溜まる.では,今の仕事を離れ自分の力でこの社会に道を切り開けるのかと問われれば,そんな自信はない.職場を失う恐怖は不満と同じかそれ以上のマイナスである.まさに,”スタグフレーション”ですね.
では,どうすれば…?路頭に迷う主人公に向けた老人の講義は,次なるステップへと進みます.
試してみることに失敗はない
老人が主人公に伝えた教訓,それは「試してみることに失敗はない」です.これを聞いたどれだけの方が”なんて含蓄に富んだ言葉なんだ!明日から実践します!”などというようにポジティブな姿勢で受け止められるでしょうか.ぶっちゃけ,めちゃくちゃ平凡な言葉に聞こえませんか.”なるほど!”とこちらを感心させてくれるような輝きがある金言には到底思えません.しかし,この言葉に込められた意味こそ,本書の核といえます.
老人は主人公との対話中、様々な視点からこの「試してみることに失敗はない」を説明します.表現は異なりますが,徹頭徹尾ずっとこれです.読み進めていくと,この言葉の哲学が読者自身の中にも溶けてきます.本当です.
成功を掴むために必要なことを尋ねられると,多くの人が目標設定の重要性を語るかもしれません.あるいは,才能,勤勉さ,運…しかし,老人はそうした要因ら全てを否定します.たしかに,運や才能,勤勉さに恵まれていることは悪いことじゃないが,本質ではない.成功における一番の問題は,「幾度となく試すかどうかである」と.
SNSなどを見てるとこれは感じます.あの人がバズったのはなぜ?とか,この人が評価されないのはなぜ?といった要因を探ってみると,単に能力や勤勉さで説明できないことが多い.後者が特段劣っているとも思えない.では,運に恵まれただけかというとそれだけでもない.前者に共通するのは,多くの人の目に留まるぐらい,種を蒔きまくっているという点です.どの種が芽吹き日の目を見るのかは断言できないが,試行回数が十分にあればいつかチャンスに恵まれるってことでしょうか.
それだけ社会の需要を正確に見極めることが難しいってことの証左でもありますね.どの種が生育に有利かを研究することに時間を掛けまくるよりも,とりあえずいろんな種を同時に蒔いてみればいい.枯れちゃうかもしれないけど,蒔かなきゃ果実を手にすることもない.考えるより先にまずはとにかく試行しろってことですね.(まあ,私は農作とかやったことないですが…笑)
完璧とは,ダメになる過程の第一段階
老人は言います.「世の中は,きみの目標が達成されるまで,じーっと待っていたりしない」と.
時代が変われば,社会を取り巻く環境も競争相手もどんどん変わっていくでしょう.そんな中でも自分だけは変わらないなんて,その上で目標を達成しようとするなんて無理があります.”適切な時”あるいは”完璧な機会”なんて世の中に存在しません.自分の価値を問いかける最適なタイミングは,いつでも思い立ったその瞬間に存在します.”タイミング”や”機会”とは,今すぐに一歩踏み出せない自分への言い訳なのかもしれません.
しかし,そうした姿勢に陥ってしまうのも仕方がないと思います.なぜなら,学校という社会に身を置いた途端,「〇〇すべき」「○○すべきではない」など様々な規律に曝されるからです.また,こうしたルールに慣れ親しんだ人が大人になり,社会を構築するため,社会人になってもやはりそれら規則が幅を利かせます.
気づいたときには,自分も規律を遵守し完璧な優等生を目指す集団の仲間入りです.多くの人があまりにも完璧なタイミング,完璧な成果を求めすぎている.老人はこうしたマインドに警鐘を鳴らします.
「ある事柄が完璧だと決め込んでしまったら,その事柄はそれ以上よくならず,ライバルに追い抜かれるのをただ待つだけだ」
完璧だと思った地点がその事象の最高到達点です.そのことに気づけなければ,ライバルにとっては,止まったままの標的でしかない.完璧なんてものは,ダメになる過程の第一段階でしかないのです.”完璧”と思った場所から,まだ向上できる点はないのか探ってみる.「完璧以上に素晴らしい」にこそ,私たちが目指すべき理想があります.
最後に
いかがだったでしょうか.本書には,この他にも含蓄のある金言に溢れています.また,「仕事は楽しいかね?2」「仕事は楽しいかね?<最終講義>」などシリーズ化されており,こちらも非常にオススメの一冊になっております.良ければこれらもどうぞ.
最後に私の好きなフレーズを紹介して終わります.
「何かをやってみて,それがろくでもないアイデアだとわかったとき,きみはもとの場所に戻ることは絶対にない.必ず,何かを学ぶからだ.学ぶべきことが何もなかった場合は,その前にしていたことに高い価値をおくべきだってこと.」
本書を通してあなたの仕事が挑戦に満ちた楽しいものとなりますように.では,また.