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名著を3行で説明する

「コンビニ人間/村田沙耶香」を一行で説明する

 今回は芥川賞にも輝いた村田沙耶香さんのコンビニ人間を紹介します。本作を一行で説明すると以下のとおりです。

サイコパスな主人公がコンビニ勤務を通して現代社会に接続する。

 実は私自身、学生時代はコンビニでアルバイトしていたんですよね。この作品を見ていて、「ああ、確かにコンビニってこういう不文律な性格あるよなあ」とか「店長ってこういうこと言いがちよなあ」とか、思い出が様々蘇ってきました。リアルなんですよね、描写が。文学作品として、奇妙な魅力溢れる本作について解説していきます!

村田沙耶香さんってどんな人?

 村田さんは日本の小説家さんです。2024年時点で44歳。玉川大学を卒業後、「コンビニ人間」含む様々な文学作品で文学賞を受賞しまくっているスゴイ方です。他方、執筆活動の傍らコンビニ店員としても働いていました。そうした背景からか、作中の描写、表現は非常にリアルで鮮烈です。

 にしても、芥川賞取っちゃうような能力者が市井のいちコンビニ店員であるというのは、なんとも親近感を覚えますよね。私がもし芥川賞作家だったら、「みんなー!私の受賞作みてくれたー!?」てな感じで吠えまくり、調子のりまくりです。身近な雰囲気を醸しつつ、スゴイ実力者という村田さんの素敵なバランス感覚は、作品の随所に散りばめられている気がします。

 主人公のモチーフは村田さん自身なのかなー?とか、主人公みたいな人が自分の身近にもいるのかなー?なんて思いを馳せると、本作をより一層楽しめるかもしれません。

主人公の人柄

 主人公は36歳独身女性。大学在学中から続けているコンビニバイトを今なお継続中。幼いころから社会に溶け込むことが苦手であり、社会に漂う「普通」に苦しめられてきました。

 良かれと思ってしたことが全て社会の持つ「普通」と大きく乖離してしまう。誰に迷惑をかけているわけでもないのに、「普通」でないことに眉をひそめられてしまう。学生時代はそんな非難の目を避けるように心を閉ざします。精神医学的にはアスペルガー症候群、俗っぽい表現ならサイコパスとでもいうのでしょうか。

 人生の転機となったのは,偶然迷い込んだ街にあるコンビニに出会ってから。その場所でアルバイトすることに決めた主人公は、次第にコンビニに魅了されていきます。整然とした商品、マニュアルでコントロールされた空間の中でなら、自分も社会に適応することができる。

 コンビニ店員としての初日を迎えた主人公は自分自身を「世界の正常な部品としての私が誕生した」と表現しています。

主人公を取り巻く社会の「普通」

 主人公には世間体というものが分かりません。社会にとっての「普通」が何なのか、また、なぜ周囲の人間がその「普通」を守ろうとするのか。それによって心の安寧が保たれる機序も。

 主人公は36歳でありながら、恋人がいたことはありません。もちろん結婚もしていません。正社員になったこともなく、学生時代から続けてきたコンビニバイトが彼女が経験した唯一の仕事です。いい年齢なのに、女なのに、フリーターなのに…

 彼女の心に土足で入り込み、勝手に決めつけ、不躾に断罪してくる迷惑な存在。それが主人公を取り巻く社会です。

 そうした環境に怒るでも悲しむでもなく、淡々と日常をこなす主人公。世間体が分からない主人公には、そうしたことに感情を変化させる理由も分からない。コンビニ店員として、社会に適応できさえすれば、他に何も求めるものはない。しかし、そんな主人公の平穏も新人バイトとして新たにやってきた男の存在によって脅かされていきます。

白羽という男

 主人公の前に現れた白羽という男は、トレンドワードで表現するところの「弱者男性」そのものです。35歳独身、恋愛経験なし。「自分には夢がある!ビジョンがある!」といいつつも、具体的な行動には全く移せないまま、人生を送る男。そんな自分が評価されないことに不満を募らせ、理解できないお前らが悪いのだと言わんばかりに周囲を見下す。自己弁護にばかり口が回る。結果として、さらに自身の株を落とす。白羽とはそんな男です。

 コンビニバイトを志望した理由は、婚活。しかし、白羽を良いと思う同僚がいるはずもなく、当然ながら客にも相手にされない。そのことに憤りを露わにする白羽。もう地獄。ちなみに白羽は自身が弱者であることを棚に上げ、コンビニ店員という存在を見下しています。仕事に応募する段階で、そうした自己矛盾には気が付かなかったようです。

 白羽という男の面白さは、主人公との対比にあります。どちらも社会不適合者であり、一見すると同じ人種ではないかとの見方もあります。しかし、「普通」への依存が全くないのに社会と繋がろうとする主人公と、「普通」への憧れや未練を断ち切れないのに社会を拒否する白羽。2通りの矛盾はまさに対極の存在といえます。

 白羽は作者の持つ人間洞察の鋭さそのものです。なんてリアルなんだろうと非常に感心してしまいます。ああ、こういう人いるよな…と、思わず笑顔になってしまうこと請け合いです。主人公目線での白羽描写は特にトガっており最高です。

 何やかんやあり、主人公は白羽と同棲します。なんでそうなるん!とツッコミが入りそうですが、そうなります。普通じゃない2人が普通じゃない結末へ着地する。そこが本作の面白さなのです。

そして結末へ

 本作が伝えたいことは、現代社会の閉塞感だと思います。本来であれば、マニュアルでコントロールされたコンビニという存在はその象徴的な存在ではあるのだけれど、主人公のような人間にとっては、救いになっている。この矛盾がなんとも面白く美しい。

「何故自分は社会で上手くやれないのだろう…?」という悩みを持つ全ての人にこの作品を読んでほしいです。上手く説明できない自分の感情を言語化するヒントが得られるかもしれません。

ご興味あれば、手に取って読んでみてください。では、また!